2023.07.30
「ドゥマシの熱い鼓動」に寄せて⑥

今回、ドゥマシを取り組むに当たり
先日、久しぶりに
90年代半ばに翻訳された
権威ある文献を見てきました。

学術的資料が少ないので
そのこともあるとは思いますが
ドゥマシの評価がかなり低くて
少し残念に思いました。

高く評価されない理由は
3つあるようです。

1、彼はヴィオラ・ダ・ガンバの
最初の出版物と主張しているものの
事実は異なること。

2、彼が提唱した装飾も
完全な彼のオリジナルではないこと。

3、古典的な舞曲を並べた組曲の域を出ないこと。

1と2の、いわば
「誰が最初に始めたか」ということは
これからも色々な資料が見つかるでしょうし
様々な学説が提唱され、覆るでしょう。

私は、演奏者らしく
「3」について触れていきたいと思います。

ドゥマシが残した組曲は
いずれも古典的な舞曲によるものです。
しかし、それが「単調である」という理由には
ならないと思います。

プレリュードはどれも個性豊かですが
舞曲ではないので述べないとして
例えばどの組曲でも2曲目に置かれたアルマンドは
曲のスピード感、拍感など
フレーズを歌う根底に
それぞれ、異なる背景を感じました。

理由はいくつかありますが
1番大きな鍵となるのは
彼がこだわり抜いた編成にあると思います。

彼は、旋律を弾きながら自分で伴奏する
ヴィオラ・ダ・ガンバ1台のために
この曲集を書きました。

そのため、
まず、その曲の調性や
曲の始まりにある音の配置
更には、演奏する場所や
個々の楽器の性格にもよって
微細な音の流れが変わってくる。

そこまで微妙な対話を経て
一曲毎の、更にはその場で生まれる
小さな変化を感じ取り
一期一会の曲運びを味わっていく
生身の人と対話し、
呼吸を感じながら時を味わうように
作品と、楽器と、空間と、時を感じていく
それがこの曲集の持つ
大きな魅力のように思えてなりません。

彼が愛したヴィオラ・ダ・ガンバ
その楽器の可能性を追求し
音楽史上、唯一無二のものとなった
彼の曲集は、
恐らく、奏者固有の息づかいをも露わにし
演奏の度に、一度しか出会えない運び、流れに触れることのできる
宝の宝庫であると信じます。

これから私も
演奏を通じてお客様と対話しながら
あるいは生徒さん方と学びを深めながら
この曲集の、新しい気づきと沢山出会えることと
心踊る想いでいるのです。

#ドゥマシの熱い鼓動