2024.05.23
「山本有三記念館春の朗読コンサート2024」に寄せて⑩

「山本有三記念館春の朗読コンサート2024」に寄せて⑩

今回は、ヴィオラダガンバ演奏プログラムで
Aフォルクレの小品を取り上げる。

ヴィオルは
ルイ14世に愛された楽器であった
マレは天使のようにヴィオルを奏で
フォルクレはそれを
悪魔のように奏でる

これはユベール・ル・ブランによる
有名な言葉である。

しかし、そもそも「悪魔」とは
どんなものだろうか
当時の人々は
どんなイメージを抱いていたのか

何回かに分けて
悪魔について、探ってみたい。

🌿🌿🌿

【デカルトと悪魔の概念】

今回は、バロック期の代表として
デカルトに触れてみたい。

ルネ・デカルト
(René Descartes、1596年 – 1650年)
フランス生まれの哲学者、数学者。
合理主義哲学の祖であり、
近世哲学の祖として知られる。

ブルターニュの高等法院評定官を父に持つ。
生後1年余りで母と死別し
祖母と乳母によって育てられる。

1606年、デカルト10歳のとき、
イエズス会のラ・フレーシュ学院に入学する。
この学院はフランス王アンリ4世自身が
邸宅を提供して
1604年に創立され、
優秀な教師、生徒が集められていた。

イエズス会は
反宗教改革・反人文主義の気風から、
生徒をカトリック信仰へと導こうとした。
信仰と理性は調和する、という考えから
スコラ哲学をカリキュラムに取り入れ、
自然研究などの新発見の導入にも
積極的であった。

1610年に、ガリレオ・ガリレイが
初めて望遠鏡を作り、
木星の衛星を発見したとの知らせに、
学院で祝祭が催されたほどである。

デカルトは学院において優秀な生徒であり、
論理学・形而上学・自然学をはじめ
占星術や魔術など秘術も含めて
多くの書物を読んだ。
そして、とりわけ数学を好んだ。
哲学的討論においては
数学的な手法を用いて相手を困らせた。

1614年、デカルトは18歳で学院を卒業する。その後ポワティエ大学に進み、
法学・医学を修めた。
1616年、法学士の学位を受けて卒業する。

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「新たな考えに対する信用を確立するには、質問の原理を徹底的に見直すしかない」
これが、彼の論法の根本理念で
とはいえ、宗教的理念に基づく視点も持ち
これは、彼が学んだ環境によるものと思う。

そのような背景から
新しい考え方が生み出されていった。

23歳の時に、この様な夢を見たと言われる。

①幽霊が現れ彼を怯えさせた。
②激しい雷の音と共に神の啓示のひらめきが訪れる
③1冊の詩集を手に取り「悪霊を恐れる気持ちを打ち消すのに必要なあらゆる形而上的洞察」を見つけた

目が覚めた時デカルトは
すでに新しい哲学体系の
書き出しが浮かんでいたという。
その体系は
「幻影と現実の違うを見分ける方法」を
完璧に備えていて、
その後「方法序説」で用いている三段論法を
大まかに表したものだった。

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ここで、彼の「三段論法」を見てみよう。
「ルール(一般論)」と「観察事項」の
2つの情報を関連つけ
そこから結論を必然的に導き出す思考法で
演繹法(えんえき法)とも言う。

懐疑主義の上で、問いを立て、
何にも頼らず
個人の精神だけを頼りに答えを出そうとし
生まれたのが
「我思う故に我あり」である。

デカルトはまず悪魔の概念を受け入れ、
思考による実験
つまり疑問を抱かせることを目的として、
最も邪悪な霊を概念上で作り出し、
デカルト本人によると
「悪魔はあらゆる力と狡猾さを駆使して全力で私を騙そうとしてきた」
と言うように、
一度、恐れの方に飛び込みながら
疑問を抱いていく。

そして
「このような悪魔から逃れるにはどうすればいいのか」
「この世界が悪魔が信じ込ませた妄想なら確実なものはどこにあるのか?」
と、考察するに至った。

その問いに対する答えは
「我思う故に我あり」
つまり、確実に信じることができるのは
自分の精神で、
万物を証明するには
その事実だけで十分だ、と唱えた。

確実な事実である自分の精神を起点に
外へと体系を構築していき
徹底的な懐疑主義こそが
完全な確実性へ導き、
明らかな現実へと進むことができる
結果、邪悪な悪魔などはおらず、
神は確かに存在し、
他者も確かに存在することを
「知ることができる」という考えである。

信念の基礎を、習慣や常識や伝統に置かず、合理性によって確信を得るということを
ここに見ることができる。

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17世紀のヨーロッパは、
30年戦争、清教徒革命、フロンドの乱
そして、その背景として、
アメリカ大陸から銀の流入の減少による
経済成長の停滞
気温の低下による凶作と経済活動の停滞
疫病など
徐々にではあるが、絶対王政から共和政
さらに立憲君主政、議会政治へ
少しずつ動く政治革命の息吹も認められよう。

このように、時代が大きく変わり、
価値観も変わろうとする間で、
人々が確かなものを欲しながら、
不安を増した時に現れるというのが、
バロック期における悪魔の特徴である。

同時に懐疑主義、理性を持って
考える人たちも
この時代が生み出した特徴と言えるのではないだろうか。

🌿🌿🌿

明日からいよいよ演奏会です。
長くお楽しみいただいたこの解説も
これでおしまいになります。

特に「悪魔」についての解説は
西洋占術研究家の愛月日向子様より
貴重な情報と視点をいただきました。
この場を借りて、御礼申し上げます。

🌿🌿🌿

三鷹市山本有三記念館
第15回春の朗読コンサート

朗読:野田香苗
ヴィオラダガンバ:藍原ゆき

随想『竹』他

Aフォルクレ
『ヴィオルと通奏低音の曲集』
(1747年パリ出版)より
第1組曲から「ラボルド氏のアルマンド」
第2組曲から「ブレイユ氏」「ルクレール氏」

Aキューネル
『1台もしくは2台のヴィオラダガンバと通奏低音のためのソナタ、パルティータ集』
(1698年カッセル出版)より
ソナタ11番ニ短調

Jシェンク
『楽の戯れ』
(1701年アムステルダム出版)より
組曲ヘ長調より「ガボットのテンポで」

2024年5月24日(金)、25日(土)
18:00開演

詳細はホームページをご覧ください

https://mitaka-sportsandculture.or.jp/yuzo/event/20240524_25/