2024.10.29
「Tヒュームの世界」に寄せて⑥

「Tヒュームの世界」に寄せて⑥

Tヒュームの「第一アリア集」は
見慣れないスペルの表記がたくさん見られる。

それは、その作品に限ったことではなく
当時の状況を推察するに
記譜法も過渡期にあり
ルールも国際的に体系化される前のことで
国ごと、スタイルごとに読み方が違うように
スペルも統一されていなかったのかも知れない。

もしくは
限られたコミュニティで一時話されていた
業界用語的な言い方なのかも知れない。
当時は、人の行き来が
現代の感覚よりずっと限られていた。
そういった言葉は、かつて本当に生きていて
それを使って人々は交流していたのだとすると
演奏に基づく機会に
現代に蘇るのは素敵なこと。

私は、表記のときに
なるべく原本に忠実にしている。

当時の出版物がすべて正しいわけでは
もちろんなくて
楽譜であれば、曲としての前後関係や
近いレパートリーの演奏経験から判断していく。
「第一アリア集」に収められる作品も
明らかに3弦上の指示が2弦に向けて書かれていたり
間違いも、きちんと解読できない箇所も多い。

「死」に関する小品が13番めに置かれていながら
12番の数字が振られた経緯は
以前、お話したとおりだが
タイトルも”death”ではなく”deth”となっている。
彼は、例えば”musical”を”musicall”と書いたり
“answer”を”aunswere”と書くなど
特殊なスペルが多く
そして、多くのTヒュームを愛する現代奏者が
それを資料上でもそのまま表記しているので
動画の小品タイトルについても
“deth”と表記しておいた。

昨日、ミラノ時代の恩師から連絡が来て
「これ、そうなの?」と指摘があった。

   一応、本人がそう書いているけど…

例えば、シンプソンの「ディヴィジョン・ヴァイオル」のように
増販に増販を重ねられたようなものなら
合わせて確認もできよう。

でも、「第一アリア集」は
そういったことは確認できなくて。

   この場合、どうしたらいいのかな

ふと、ファクシミリの目次を確かめたら
“death”表記だった。

   そうか、じゃあ間違いなのかも。

YouTube動画も一応直した。

ただ、現代でこの曲のタイトルを表記する時
“deth”と書いている場合もあり
正直、自分の責任を持った意見や
しっくり来る落とし所は見つからなかった。

江端先生のお話にも出てくるけれど
直筆原稿が正解とは限らないし
ファクシミリを読むときにも
それを正解とするわけには行かない。

学者さんたちは学術的な決め事があるだろうけれど
奏者として多分、大切なのは
私達が現代の物差しでつい測ってしまうものを
一回取り除く
当時の人の感覚を推察してみることだと思う。
それは現実離れしたファンタジーではなく
わかっていることを踏まえて
今の感覚の「当たり前」に
固執しないことなのかな、と思う。

決めつけないで
様々に見ていくことかと思う。

あと、自分のものの見方を縛るのは自分。
それが手放せる時は
張り詰めが解けるような心地よさを感じる。

個人的には
独特のスペルで表される時に
「ヒューム来たキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
と、なる。

【演奏会のご案内】

藍原ゆきのヴィオラダガンバ カフェ
Tヒュームの世界

2024/11/17(日)13:30開場、14:00開演

3500円(要予約)ワンドリンク&お菓子付き

会場:カフェヴェルデ
東京都世田谷区松原3-33-5
京王線、東急世田谷線下高井戸駅より徒歩3分

プログラム:トバイアス・ヒューム
『フランス、ポーランド等の第一アリア集
(キャプテンヒュームの音楽的ユーモア)』より
1605年ロンドン出版
「一つの問い」「一つの答え」
「キャプテンヒュームのパヴァーヌ」
「愛の別れ」
「死ぬこと」「生きること」「再び善きこと」他

お問い合わせ、お申し込みはこちら
http://yuki-aihara.com/contact

当演奏会関連記事
https://note.com/shiny_dahlia839/m/m50242624b53b

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