「フランスいにしえの吐息」に寄せて⑧
マレは「ヴィオール曲集第2巻」で
恩師であるサントコロンブとリュリに
それぞれトンボーを捧げています。
今回のプログラムでは、
「リュリ氏のトンボー」と
それを含む組曲ロ短調を取り上げます。
※※※
バロック音楽の一つの形式である「トンボー」は
主にはリュート、
そしてチェンバロやガンバのために
書かれているので
他の楽器奏者さんにとっては
馴染みがないものかも知れません。
「トンボー」の語源は
フランス語で「墓」を意味して
偉人の死後、その業績を讃えたり
哀悼を表しています。
拍子感はかなりゆっくりで、瞑想的です。
起源は葬送のパヴァーヌに見ることができます。
「哀しみ」や「痛み」を表現した
イタリアの「ラメント」とは少し違い
訪れる死を象徴した反復音形や
魂の苦悩や、その超越を象徴する
全音階、もしくは半音階の
上昇、下降音形など
死生観をも意識した内容の
レトリック的な表現が伴います。
一時、廃れますが
М・ラベルの「クープランの墓」(1917)など
20世紀に入ると
再び用いられるようになりました。
※※※
1702年に発表された当時
「トンボー」は、すでに
形式としては古典的なものでした。
「リュリ氏のトンボー」は
主題が、十字架を形作る音形になっています。
そしてマレが愛した、ため息のフレーズ
全音階どころじゃない、跳躍の上昇、
なぜか「サントコロンブ氏のトンボー」の主題などが
惜しみなく取り入れられています。
こうして、「トンボー」の定義を
改めて振り返ると
組曲の前奏曲からして
すでにトンボーの気配を感じます。
※※※
余談ですが、私はどうしても
この組曲の前奏曲、最初のフレーズが
モンテヴェルディのマドリガル
「come sei gentile」の冒頭に
似ている気がして…
イタリア時代の恩師に
そのネタで連絡をしたら
「あー、わかる、わかるよ」と
言ってもらえました。
「ラメント」との比較のように
イタリアものと違った
美意識の価値基準があったとも言われますが
いずれにしても、
刺激や類似点もあったかと思います。
マレの「ヴィオール曲集第2巻」には
今回は取り上げませんが
有名な「スペインのフォリア」も
収められています。
昔から
どうしてわざわざ
「スペインの」と
つけているのかな?
と、疑問でした。
なにも言わなくても
フォリアは「スペインの」なわけだから。
ルイ14世は正室がスペイン人なので
忖度したのかなとも思いましたが
もしかして、直前に
「イタリアのフォリア」が
発表されたからなのかな、とも思います。
つまり、
A・コレッリの「ラ・フォリア」を含む
「ソナタ集作品5」のことです。
#フランスいにしえの吐息