2023.12.28
本屋と記憶

駅の向こうまで用事があった。

歩くと、日常を離れた空気
慣れない様子でトランクを押す人たちは
みんな、嬉しそうだった。

だからだろうか
久しぶりに、駅の本屋に立ち寄ったのは。

本屋を見るのが好きだったのに
時間を忘れるが如く過ごせたのに
だんだん、
「こんなに時間が経ってしまった」と
本屋へ寄ることにすら自制をかけてしまい、

いつからか、
必要なものはウェブで調べるだけになり
忙しさに追われて
本屋とは無縁の生活になっていた。

私は、字を読み
そこから情報を吸収するのは
体質的に苦手だ。
本屋へは、
無防備に何かを浴びに行っていた。

そこで惹かれるように手にした本
記憶、情景が蘇ってきた。

「あなたは本の鼻がいい」
そう、褒められたことがある。

遠い記憶…

過去は決してなくなる訳ではなく
今も、引き出しから何かを取るように
思い出すことができる…

ただ、人は例えば「赤いもの」に集中すると
眼の前から赤いものだけを
脳がピックアップするように
フィルターをかけている。
そうでないと、情報処理しきれないから。

素敵な場所、素敵な時間
ただ、その時は必死で
夢中で通り過ぎてしまった過去の
五感に、そして六感に刻まれた古い記憶とも
きっと、アクセスできるようになるだろう。

果てしない広がりに
今は、目が眩みそうだ。