2024.03.01
「朗読とヴィオラダガンバで届ける愛の詩」に寄せて⑪

「朗読とヴィオラダガンバで届ける愛の詩」に寄せて⑪

ヴィオラダガンバの演奏プログラムで
マラン・マレ『異国趣味の組曲』より
「アラベスク」を取り上げる。

「アラベスク」とは本来
モスクなどの壁面装飾に見られる
イスラム美術の一様式である。
時に植物や動物の形をもととする
幾何学的文様を反復して作られている。
人物を描くことを禁じる
イスラム的世界観に基づいている。

アラベスク形式を用いた美術作品は、
黄金時代(750年頃 – 1200年頃)を迎えるまで
使用されていなかった。

イスラム黄金時代には、
古典古代のギリシャ語やラテン語のテキストが
アラビア語に翻訳されていたようである。
また後のヨーロッパのルネサンスのように、
数学、科学、文学、歴史などの研究が
イスラム世界に大々的に広まり、
プラトンや、とりわけユークリッドの著作が
教養人の間で人気を博した。

アラベスクの原型となった
様式の発生を促したのは、
まさにユークリッド幾何学であり、
ピタゴラスが体系化した三角法の基礎であり、
『ユークリッド原論注釈』であった。

   我々の届かないところに
永遠不滅の完璧な存在がある、

とする、プラトンのイデア論も
アラベスクの発展に影響があったと
考えられる。

🌸🌸🌸

アラベスクの概念と
実際の楽曲との関連性については、
旋律、和声、リズムと
様々な観点からの解釈の余地があり、
容易に特定できるものではない。

19世紀の終わりに
ドビュッシーはこの言葉を
とりわけバッハの音楽と結びつけ、

   芸術のあらゆる様態(モード)の
根底である“装飾”のあの原理

と言い換えている。

🌸🌸🌸

この協奏曲は、大バッハの楽譜帳にかつて書きこまれてきたたくさんのあいだでの、感嘆すべきひとつなのである。そこには、あの<音楽のアラベスク>というよりむしろ芸術のあらゆる様モード態の根底である<装飾>のあの原理が、ほとんど無疵なままで見出さ
れる。(<装飾>ということばは、音楽の文法がそれに与えている意味とは、この際なにも関係がない)

(中略)

バッハの音楽においてひとを感動させるのは、旋律の性格ではない。その曲線である。さらにしばしばまた、多数の線の平行した動きだ。それらの線の出会いが、偶然であるにせよ必然の一致にせよ、感動を誘う。こうした装飾的な構想に、音楽は、公衆が感銘を受け心象にいだくようにはたらきかける機械のごとき確実さをもたらす。

『ドビュッシー音楽論集―』

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面白い時代の接点だと思ったので
話がそれてしまったが
マラン・マレがイスラム美術としての
「アラベスク」に
音楽上、何を見たのかは
今となっては立証する術はない。

一つには、バロック時代の作曲家が
「対位法」「和声」同様に力を入れた
「旋律の装飾」はあると思う。

そして、演奏においては身近な存在過ぎて
しばしば、忘れられてしまうことだが
楽譜の視覚的に与える印象も
大きな味わいだと言えよう。

「アラベスク」の楽譜は
まるで「アラベスク」の様に美しい。

🌸🌸🌸

演奏会のご案内
〈朗読とヴィオラ・ダ・ガンバで届ける愛の詩〉

『かのひと 超訳世界恋愛詩集』菅原敏
マラン・マレ 「人間の声」「アラベスク」他

2024/3/16(土)
淡路町カフェカプッチェットロッソ
11:30〜、14:30〜
3500円 ドリンク&お菓子つき
完全予約制

お申込み
ventvert0403@gmail.com

#朗読とヴィオラダガンバで届ける愛の詩